東京高等裁判所 昭和53年(ラ)518号 決定 1978年7月04日
抗告人
株式会社上一事務所
右代表者
上中弘幸
右代理人
寺口眞夫
外二名
相手方
松井建設株式会社
右代表者
松井泰爾
相手方
小野智恵子
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
<前略>
賃貸人、賃借人の間において借地条件のうち非堅固な建物所有の目的を堅固な建物所有の目的に変更するについて当事者間に協議がととのなわない場合において裁判所が借地法八条の二第一項(以下一項という。)の規定によつて裁判をなす場合に借地上に非堅固な建物が現存するときはこれを堅固な建物に改築することが予定されており、従つてこれを堅固な建物に改築することが予定されており、従つて右裁判においては改築の可否も審理の対象とされていることが通常であり、特に増改築制限の特約のある賃貸借の場合には特段の事情なき限り借地法八条の二第二項(以下二項という。)に定める増改築許可の裁判の内容も当然包含されているものと解するのが相当であり、そうでなければ一項の裁判は無意味無内容となるものである。
そして抗告人の主張する本件借地につき一項に従つてなされた東京高等裁判所の裁判も、賃貸借契約上増改築制限の特約が存し、相手方らが直ちに借地上に現存する非堅固な建物を堅固な建物に改築しようとしてる事案に関するものであるから、当然二項の裁判の内容も含まれているものと解することができる。
尤も右裁判においては、その主文において特に建築しようとする建物の規模、面積、構造等に直接触れてはいないが、主文に掲記されている附随処分を決するについて抗告人主張のような地下一階、地上四階の建物を基準としていることが明らかであるから、おのずから従来の非堅固な建物から右の規模の建物へ改築することを許可しているものと解され、その限度において相手方らは改めて二項の裁判を求める必要はないものというべきである。
ところで、一般に一、二項の裁判を求めるに際して申立人は必ずしも確定した建物の設計を完成していることを要求されるものではなく、又一応建物の設計が完成していてもその後設計変更されることもままあることを考えれば、特に申立人において賃貸人、裁判所等を欺罔して有利な裁判を求めようとするような意図がない限り裁判に表示された建物の規模等と現実に建築する建物の規模等との間に若干の差異を生じることは巳むを得ないものであり、そのような建築をしたからといつて裁判の趣旨に反するものとはいえず、従つて新たに二項の裁判を必要とするものではない。(勿論その間に大幅な差異がある場合においては改めて二項の裁判を求めた上建築をしなければならないこと当然である。)
そこで本件についてみるに、相手方らが現在建築しようとしている建物は疎明によれば地下一階、地上五階の建物であることが一応認められ、前記一項の裁判において表示された建物と階数において異るものであるが、疎明によると前者の総面積は613.10平方メートルであり、後者のそれは607.55平方メートルであつてその差は僅少であるので相手方らが建築しようとしている建物の建築が前記一項の裁判の趣旨に反するものとは解することができない。
そして疎明によれば右変更は大和市の指導によつてなされたものであることが一応認められるものであつて、相手方小野において前記一項の裁判を求めるに際して欺罔行為等をなしたことを疎明すべき資料の存しない本件においては相手方らは更に二項の裁判を求める必要もなく、直ちに前記規模の建築をなし得るものである。
<中略>
以上のように相手方小野は一項の裁判を得てかつその定める金八五〇万円を有効に供託し、同裁判所定の限度において増改築の制限を免れたものであるから相手方らは本件建築をなすについて新たに二項の裁判を必要とせず、従つてこれを必要とすることを前提とする本件仮処分申請はその被全保権利を認めることができないからその余の判断をなす迄もなく失当として棄却を免れない。《以下、省略》
(吉岡進 前田亦夫 手代木進)